《研修内容の概要・感想など》
今回の研修会では、グラム染色で読み取れる情報についてご講演いただいた。
検体のグラム染色からは細菌だけでなく炎症細胞や上皮細胞などの細胞も観察でき、細菌についても菌種の推定や起因性や抗菌薬の影響などを読み取ることができる。
その為には、検体採取や標本作成も考慮しなければならない。たとえば、固定方法も細胞への影響が大きい火炎固定からメタノール固定にすることで細胞の変性が少なくきれいに染めることができる。喀痰については、洗浄法を実施することで常在菌の影響を最小限にできる。また、細胞は冷蔵でも保存による影響が大きいことから、なるべく早く塗抹することが重要である。さらに、品質評価や菌種の推定のコツなどについて材料別に解説があった。誤嚥性肺炎について、グラム染色での誤嚥所見の解説がされた。また、抗菌薬の投与前後のグラム染色の比較による治療効果の判定について解説があった。局所の炎症の状況は、抗菌薬投与後1〜数時間後のグラム染色をすることで、反応が遅く半減期が長いCRP・WBCや胸部X線よりも、リアルタイムに菌の減少や消失を読み取ることができる。喀痰では去痰剤によるグラム染色の染まり方が影響を受けることも知っておく必要がある。
グラム染色は迅速な感染症の診断と病態の把握に有用であり、適正な治療薬の選択に活用できる。また、治療効果の判定にも活用できることから、有効で安価な抗菌薬の選択や迅速な適正治療による入院期間の短縮、さらには不適切な治療による耐性菌の出現を予防できるということであった。
適切な検体採取、保存・輸送、標本作成、上手なグラム染色が出来た上での標本の観察であり、まずは細菌を正しく判定できることが大切である。無菌的な材料などでは菌種の推定を報告している施設もあるが、症例によっては臨床と情報交換した上で、今回の勉強会で得たことが役立つような症例を積み重ねられたらと感じた。従来の細菌を観察することを重点にしたグラム染色から、細胞も含めて評価することにより多くの情報が得られる。臨床から得られる少ない情報と検体の表情(状態)をさらにグラム染色で観察しながら、臨床がこの検査を依頼した意味を想像すると何かが見えてくる症例がある。それを臨床へ確認することを一つ一つ丁寧に繰り返すと、より鮮明に見えてくる。
今回の研修会は、91名の参加者があり会場から溢れるほどであった。参加者の関心も高く、講演は大変勉強になった。
平成22年11月21日 文責: 荻野 毅史
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