生涯教育レポート 5


夏期集中研修会 真菌検査「講義および実習」参加レポート
吹貝姿子(埼玉医療生活共同組合 羽生総合病院)



日時:平成17年8月13日土曜日
時間:13:30〜17:00
講師:中川卓夫(小白川至誠堂病院)
協賛:デイド・ベーリング株式会社
          :株式会社ビー・エム・エル総合研究所
参加人数:
32名
 

 講義内容が真菌と疥癬について、実習内容がスライドカルチャーおよび真菌培地の観察であった。
 真菌についての講義では、日常や臨床で見られるカビ、検査技術に関してであった。日常生活で見られるカビに麹カビA.oryzae、青カビPenicillium、赤カビFusarium、クモの巣カビRhizopus、すすカビAlternaria(アレルゲンとなる)、黒カビCladosporium等があげられていた。梅雨時期に見られるTrichosporonによる夏型過敏性肺炎、湿度好性の真菌として、Cladosporium、AlternariaMucor等があげられ、温度変化と発育として、通常27〜30℃が発育温度として適しているが、A.fumigatusは37℃で発育可能であり(この点で他のAspergillusと区別がつくとのことであった)、CladosporiumPenicillium、等は30℃以上になると細胞活性が低下し、Fusariumは低温で発育可能ということであった。また、マイコトキシン(カビ毒)産生菌として、AspergillusPenicilliumFusariumがあげられていた。
 臨床で見られる真菌症として、深部皮膚真菌症にスポロトリコーシス、クロモミコ−シス等、表在性皮膚真菌症に水虫、癜風、皮膚カンジダ症等があげられ、表在性皮膚真菌症の場合、培養よりも検体を用いた鏡検で十分との事であった。肺アスペルギルス症である、β−Dグルカン陰性、喀痰にも検出されにくいアスペルギローマ(この場合、BALや血清学的診断を用いる)と侵襲性で、β−Dグルカン陽性、喀痰から検出される肺炎型アスペルギルスについて、Cryptococcusはハトの新鮮なフンよりも古いフンに多く含まれる事、夏型過敏性肺炎はTrichosporon(クロモアガーでも培養可能)によるアレルギー性反応であり、深在性真菌症ではないため、検体から検出されないことから、診断は抗原抗体反応によるということであった。また、深在性真菌症の診断について、血清学的診断にβ−Dグルカンが用いられるが、MucorCryptococcusでは陰性であること、抗腫瘍剤投与では偽陰性となる事や、肺クリプトコッカスでは喀痰からCryptococcusが検出されないため、BALや血清学的診断を用いる事、墨汁染色を実施した場合、C.glabrataでもCryptococcus様に見えることがあるので注意が必要という事であった。皮膚科領域の真菌症として、Sporothrix schenckiiによるスポロトリコーシスがあげられ、これは二形性菌であり、培養温度が25℃では毛カビ状、37℃では酵母状であり、スポロトリキンによる皮内反応で診断可能であるという事であった。皮膚カンジダ症では20%KOHを用い、仮性菌糸と分芽胞子の確認で十分であること、Malasseziaによる癜風では、発育に脂質が必要な為、オリーブ油を添加した培地が適しており、また、皮膚を直接セロハンテープで採取し鏡検を実施するので十分であるということや、黒色真菌症としてクロモミコーシス等があげられていた。
 検査と技術について、培養はサブロー寒天を用い、25℃と37℃で実施するか、あるいは37℃で2〜3日間培養後、培養温度を25℃へ変更し培養を継続するという方法でもよい事、糸状菌培養ではシクロヘキサミドを含む斜面培地が良い事、ポテトサブローでは集落の色がきれいにでる等のお話があった。また、真菌の鑑別として分生子型がキーポイントであり、出芽型、フィアロ型、アレウリオ型、ポロ型、シンポジオ型、アネロ型等それぞれの特徴についての説明があり、糸状菌である白癬菌のT.mentagrophytesでは螺旋体がみられ、T.rubrumでは螺旋体は検出されず、M.canisの大分生子は太く、M.gypseumの大分生子は細い等の特徴や、各種Aspergillusの頂嚢の形態的特長と集落の色調、Penicilliumでは頂嚢がみられず、胞子のみ観察される事や、接合菌では仮根の有無とそれらの形態的特徴により鑑別する等ということであった。真菌培養の注意点については培養期間が2〜4週間たつとAspergillusの各菌種ともに集落が黒変することや、培養中、空気にふれさせないと胞子に色がつかないためシャーレを密封しないということがあげられた。
 疥癬は、ヒゼンダニが皮下に寄生することにより発症するものであり、角層にトンネルを作りその中で約一ヶ月にわたり卵を産む。また、ヒトから離れると速やかに死滅すると言うことであった。疥癬には2つの病型があり、通常の疥癬と重症であるノルウェー疥癬とがある。通常の疥癬では寄生数1000以下、部位は首から下であり、かゆみが強く、隔離の必要はないが、ノルウェー疥癬では潜伏期間も短く、寄生数100万〜200万、部位は全身、隔離の必要があり、また宿主の免疫能低下等の為、かゆみが少ないという特徴があげられた。治療にはγBHC(入浴前)やオイラックスを塗るということであったが、ダニが死んでいてもアレルギー反応のためにかゆみが治まらない場合があるとの事であった。診断方法としては20%KOHを用い皮疹から鏡検で虫体、虫卵の確認であるが、注意点として採取部位がカサブタ部分では検出されにくく、部位としては小水泡部分がよく、また鏡検で虫体の一部分のみ検出される事等があげられた。
  実習ではKOH法による皮膚の鏡検、簡易スライドカルチャーの標本作成と観察であった。その中で頂嚢部分に変異がみられるAspergillusの観察をすることができ、大変貴重な経験となった。
 真菌検査について、KOH法や鏡検による分生子型の鑑別は検査技師の知識や経験値により大きく左右され、また培養に使用する培地の種類により集落の色調に大きな差がみられた。一般細菌に比べ分離頻度は少ないが、臨床から検出される真菌は限られることからこれらの性状、特徴をよく覚えておく必要がある。また、疥癬は院内感染でも問題とされており、通常の疥癬とノルウェー疥癬とではその対処法にも違いがある。その性質と対処法をよく知り、院内感染対策に努めなければならないと思われた。

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