生涯教育レポート 17
微生物検査および公衆衛生検査研究班
           

感染症に関する最近の話題と菌株供覧感染症法改正について  
(第17回生涯教育研修会レポート)
(公衆衛生研究班と合同研修)
    日 時:平成19年6月2日(土) 13:00〜15:00
    テーマ:感染症に関する最近の話題と菌株供覧
    場 所:埼玉県衛生研究所  参加人数:35名
    講 師:講師 山口正則 倉園貴至 嶋田直美 山本徳栄
      :古畑健司

概要・感想など:

倉園氏は、腸管系細菌感染症について講義された。2006年度埼玉県の検出状況は、コレラ菌(5)赤痢菌(12)チフス菌(5)パラチフスA菌(1)腸管出血性大腸菌(101)であった。コレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌は主に海外感染であり、腸管出血性大腸菌は国内感染であった。感染症法に規定されているコレラ菌は、生物学的性状がコレラ菌であり、コレラ毒素産生能力があり、血清型O1、O139の菌である。しかし、今年、2例(インド渡航)より検出されたコレラ菌は、CT毒素非産生のため、通常行われているRPLA法(逆受身ラテックス法)で検出されず、PCR検査で検出されたそうである。感染症で規程された毒素産生能力は、RPLA法かPCR法で行うため、RPLA法が陰性でもコレラ菌陰性としないで頂きたいとのことであった。その場合、PCR法は衛生研究所に相談して下さいとのことであった。また、昨年の10月、中国帰りの激しい下痢症患者より検出された菌は、CT毒素産生あり、血清型O1、O139に凝集しない菌が検出された。衛生研究所から国立感染研に精査をお願いしたところO141(血清型はO1〜187)であった。O141は、過去5年間に何例か検出されているため、今後、新たな流行の兆しがあるため注意して頂きたいとのことであった。県内で検出された赤痢菌にESBL産生菌が2例(中国渡航、国内由来)と、チフス菌で初めてニューキノロン系薬に耐性菌が1例(インド渡航)検出された。特に海外渡航歴患者からの検出菌は、治療に影響するので注意して下さいとのことであった。出血性大腸菌は、O157以外の血清型の検出が増えて来てきていた。今後、血清型に凝集がなくVT毒素産生菌が増える可能性があるということであった。サルモネラ菌のペット感染は、ヒトからペットに感染する場合があるので、一概にペット感染と決められないとのことであった。
 嶋田氏は、Corynebacterium ulceransについて講義された。この菌は通常、毒素は産生しないが、ジフテリア様疾患患者から検出された菌は、ジフテリア菌とほぼ同じ毒素を産生する。この様な症例で菌が検出された場合、毒素検査は衛生研究所に相談して下さいとのことであった。世界での発生は、主に英国、フランス、アメリカであり、国内では、2001年から2006年に千葉県(2)、岡山県(1)、大分県(1)、神奈川県(1)の5例報告があった。しかし、感染症法では届出の対象ではないが、今後、届出の必要があるのではないかということであった。
山本氏は、アライグマ回虫とエーリキア症について講義された。アライグマは気性が荒く凶暴のため、ペットとして飼育できず、飼い主が離してしまい、全国的に繁殖し作物などに被害が多発しているそうである。そのため、飼育、販売、輸入禁止が平成17年6月に特定外来生物による生態系の防止に関する法律が施行された。また、アライグマからの回虫にヒトが感染すると、中枢神経への重篤な症状を起こすそうである。国内では、まだ発生はないが、調査が必要ではないかということであった。エーリキアの新分類と検査法(遺伝子検査)、感染経路(マダニ)、症状(インフルエンザ様)・治療薬(テトラサイクリン系)について述べられた。
 山口氏は、感染症予防及び感染症患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律について講義された。平成18年12月8日公布、平成19年6月1日施行となった。感染症法上の感染症類型の改正は、一類感染症のSARSが二類感染症に、二類感染症のコレラ・細菌性赤痢・腸チフス・パラチフスが、三類感染症に移行した。新たに追加された疾病は、一類に南米出血熱ウイルス、二類感染症に結核、四類感染症は従来の30疾病に11疾病が追加され合計41疾病となった。なお、五類感染症について変更はない。病原体等は一種から四種に分類され、自施設の基準が満たされていなければ取り扱うことができなくなった。また、生物テロを防止するため、病原体の保管や管理体制の強化、運搬に関する規制事項が盛り込まれ、また、違反の場合は処罰が厳しくなった。
 古畑氏は、菌株供覧と講義がされた。菌株供覧は、Salmonella sp. S.Typhi、S.Paratyphi A、Shigella sonneiS.boydiiS.flexneri、出血性大腸菌O157、Yersinia enterocoliticaVibrio parahaemolyticusV.choleraeV.fluvialisAeromonas hydrophilaA.sobria、について行なった。各種培地に発育したコロニーの観察する時の注意点や同定検査のコツなどが詳細に説明された。山本氏による顕微鏡検査による原虫検査も詳細に説明された。
 
                                         平成
19624
                                                                レポーター 向坂 元秀                           

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