45脳と腸の関係明らかに おわりに分のカテゴリー別比率を無菌(Germ free, 以下GF)マウスおよび通常菌叢(Conventional, 以下CV)マウスの大腸内容物より10個のカテゴリーに分類し、GF < CV、GF ≒ CV、GF > CVのそれぞれの成分を表4のような成績を見出しました。すなわち、CVマウスはGFマウスに比べて、アミノ酸代謝関連成分、中心炭素代謝中間体、補酵素・補酵素代謝中間体が多く、反対に、GFマウスはCVマウスに比べてアミノ酸やペプチドは少なく、それらは両群に共通して該当するものが多かったのです。 これらの研究成果は、これまでの腸内常在菌研究がそれの構成のみの視点を重視するあまり、本来、宿主と腸内常在菌の関係を示す代謝物を軽視してきた流れを変えうる力を有していると高く評価され、機能性食品開発の一助ともなっています。今後、ノートバイオート動物(既知菌種・菌株投与動物)などを駆使して、様々な腸内代謝物に及ぼす菌種・菌株レベルでの解明が進展するでしょう。 腸と脳の間の双方向のシグナルは生体の恒常性維持に重要であり、神経、ホルモン、免疫レベルにおいても制御されています。これらのシステムの攪乱はストレス反応や行動における変化にも直結しており、脳の発達や行動にも腸内常在菌が関与していることも知られています。私ども(16)は腸内代謝物解析と同様の手法により、GFおよびSPFの両群のマウスから、脳内容物を回収して、大脳皮質に含まれる代謝物を、両群で比較したところ、代謝物のうち23成分(行動と関連深い神経伝達物質であるドーパミン、統合失調症との関連性ありとするセリン、多発硬化症やアルツハイマー発症に関連性ありとされるN-アセチルアスパラギン酸など)は、GFマウスの方がCVマウスより高濃度であり、逆に、15成分(神経伝達物質の前駆物質である芳香族アミノ酸、てんかん発症と関連あるらしいピペコリン酸、乳児の脳機能発達に関与しているらしいN-アセチルノイラミン酸など)は、GFマウスの方がCVマウスより低濃度であることが解明され、腸内常在菌が脳内代謝物の産生促進・減弱に関与していることが明らかとなりました。 本成績のみでは、脳の活性化や脳の病気に関わっている神経伝達物質と、腸内常在菌の詳細な関係についてはまだ分析されていませんが、脳の健康や疾病、発達と衰弱、学習や記憶、行動などを研究推進するうえで大きな意義があるといえます。今後、腸内代謝物と同様にノートバイオート動物(既知菌種・菌株投与動物)を駆使して、様々な腸内代謝物に及ぼす菌種・菌株レベルでの解明が進められるでしょう。 従来の「腸内常在菌研究」は細菌分類学を背景にして、いわば「知るための研究」でありましたが、腸内常在菌解析による健康管理法の確立は予防医学と手を携えて進むことで、人々の健康に結びつく研究という意味は「知る」という科学の営みを超えた研究分野になっています。今や、腸内常在菌の構成と機能の解明により、新たな研究領域に拍車をかけ、人々の健康の有り様さえも変え得る力になるか否かの分岐点にあるのです。
元のページ ../index.html#47