埼臨技会誌 Vol.70 補冊 2023_電子ブック
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44代謝物への影響が健康に関与成したデータベースを駆使して、生活習慣の予測および罹患予測と現状を比較する試みを開始いたしました(10)。これまで、健常成人約2万名(20〜70歳)から大便の提供並びに生活特性アンケート調査を実施し、腸内常在菌構成と生活特性(個人属性や生活習慣)の相関性を検索したところ、腸内常在菌の構成により9グループに分けられ、年齢、性別、体重、排便状況、居住地域、食生活、運動習慣、心理的・の精神的状態との相関が見出されたのです。今後、これらのデータベースを公開し、生活習慣の予測や将来の健康状態の把握などに応用されるものと期待しております。今後、何万人という人々の腸内常在菌をさらに解析し、様々なパターンに分けることができれば、健康な腸内常在菌パターンと、病気になりやすい腸内常在菌パターンが分かるのではないでしょうか。  急速な高齢化と飽食による生活習慣病患者群の増大によって、国民医療費はすでに41兆円を超えており、国家財政上で喫緊の課題になっています。そこで国民生活のQOL(生活の質)を大きく損なわない予防医学的手法の開発が切望されていますが、いまだ具体的な突破口は見出されていません。そこで、腸内常在菌解析の成績と生活特性との関連性を解明し、腸内常在菌—生活特性データベースを駆使していけば、生活習慣の予測および罹患予測と、現状の比較の実施が可能になると確信しております。つまり、個人ごとにお腹の腸内常在菌のパターンを知ることが、健康維持・増進および疾患リスクの軽減に結びつき、やがては健康QOLの向上に結びついていくことになります。これらの試みは健康予防効果を促進し、これから増え続ける国民医療費の大幅削減に拍車をかけることでしょう(図2)。 ヒトの腸内常在菌の構成が極めて個人差が大きいために、腸内常在菌が棲む場である大腸はヒトの臓器の中で最も種類の多い疾患が発症する場とされています。腸内常在菌が産生した腐敗産物(アンモニア、硫化水素、アミン、フェノール、インドールなど)、細菌毒素、発がん物質(ニトロソ化合物など)、二次胆汁酸などの有害物質は腸管自体に直接障害を与え、発がんや様々な大腸疾患を発症するとともに、一部は吸収され、長い間に宿主の各種内臓に障害を与え、発がん、肥満、糖尿病、肝臓障害、自己免疫病、免疫能の低下などの原因になるであろうと考えられてきましした。 腸内環境-宿主間のクロストークは、現在、腸管上皮細胞表面のToll様受容体などを経由した、菌体成分の直接刺激の研究が盛んに行われています。腸内常在菌の代謝物は少なくとも数百種類以上存在すると考えられ、そのほとんどは低分子のため腸管粘液層にも浸透し、上皮細胞にも直接影響を与えます。 腸内常在菌が宿主の各臓器、血液や尿内の代謝物に影響していることが知られています。これまで,困難とされてきた生体内代謝物の測定にメタボロミクスが有効であることが示唆されています(11-14)。私どもは遺伝的な偏りをなくすために、兄妹で交配させて誕生した無菌マウス(GF)のオス6匹を、無菌状態で育てた6匹と、生後4週間目に“腸内容カクテル”を食べさせた腸内常在菌を含む体内微生物を有する通常マウス(SPF:6匹)の2群に分け、滅菌水や減菌飼料などを使って同じ条件で育て、7週間目に、両群のマウスから、腸内容物を回収して、CE-TOFMSを用いたメタボローム法により腸内代謝物の網羅的解析を実施しました(15)。その結果、腸内容物メタボローム検出成学会企画講演1

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