埼臨技会誌 Vol.68
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アドバンスセミナー5微生物座長:酒井 利育(自治医科大学附属さいたま医療センター)講師:大金 佳菜(埼玉医科大学病院)感染症の診断および抗菌薬の選択には、起炎菌を迅速に同定することが重要である。培養を基本とした同定検査はコロニー形成が必須であり、それをもとに生化学的性状検査などを行うため、検体提出から同定結果報告まで少なくとも2~3日間を要する。しかし、質量分析法や遺伝子検査の登場により、菌種同定までの時間は大幅に短縮され、質量分析法であればコロニーが形成されれば10分程度で菌の同定が可能である。さらに血液培養検体では、陽性ボトルからの直接同定も可能となっている。とくに敗血症は、早期の抗菌薬投与が患者の予後に大きく影響するため適正な抗菌薬選択は重要であり、質量分析法などを用いてより早期に起炎菌を同定することは、抗菌薬適正使用に繋げることが期待でき診療の一助となる。質量分析法は、菌種によって分子量が異なるリボゾームタンパク質を主体としてマススペクトルをとるため、16S rRNAシークエンスを用いた同定法に限りなく近い精度の結果を得ることができる。従来の生化学的性状検査では、同定出来なかった菌種も短時間で同定可能となっている。しかし、S. pneumoniaeとS. mitis/oralisやShigella属とE. coliといった、16S rRNAの相同性が高い菌種においては、胆汁溶解試験や抗血清による凝集反応などの追加試験が必要である。誰でも簡単に実施できる質量分析法だが、抗酸菌のように構成するタンパク質が複雑である菌種では、マススペクトルのピークパターンが十分に得られず、菌種同定が出来ないこともある。それぞれの検査機器の限界を理解した上で、検査結果を鵜呑みにしない事が大切である。薬剤感受性検査は、感染症治療に使用する有効な抗菌薬を選択する上で最も重要な検査である。そのため、菌液濃度、培養環境、培養時間など、参照する判定基準をしっかりと理解した上で、正確な検査結果を報告する事が求められている。現在は自動機器が薬剤感受性検査の主流となっているため、ESBL産生菌や、BLNARといた耐性菌報告時にロジックを上手く活用することが簡便で重要である。薬剤耐性菌は、MRSAやCREのように特定の抗菌薬の感受性61結果より検出できる場合もあれば、CPEのように感受性結果だけではなく、加水分解酵素の存在を確認することが必要なものがある。とくに日常的に遭遇して悩むのは、ESBL産生菌とAmpC産生菌ではないだろうか。これらは、まず薬剤感受性の結果より耐性菌を推定して、必要な追加検査を行う事で検出可能となる。しかし、耐性菌を感受性パターンから推定できたとしても、表現型試験で正確に検出できない事例にも遭遇することがあるが、この点を解決してくれるものが遺伝子検査である。近年では耐性遺伝子の検出を短時間で行える全自動PCR検査装置が導入され、薬剤感受性検査の結果を待たずに、耐性遺伝子検査結果より抗菌薬の選択が可能となった。特に感染対策上重要な結核菌は、薬剤感受性検査結果の報告までに時間を有するため非常にメリットがあると考える。また昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大により遺伝子検査機器の導入が大きく進んだ。これにより多くの施設で汎用性の高い遺伝子検査機器が導入され、コロナウイルス検査だけでなく、微生物検査の分野でも活用されている。しかし、遺伝子検査は目的とした遺伝子配列が存在すれば陽性と判定される。耐性遺伝子の保有を認めても、必ずしも表現型検査で耐性とならず、遺伝子型と表現型での検査結果の乖離が起こる場合がある。実際に当院では、結核菌の耐性遺伝子検査でRFP耐性遺伝子を保有しているにもかかわらず、薬剤感受性試験ではRFPに感性を示した症例を経験した。遺伝子検査のデメリットとそれぞれの耐性機序を理解し、患者背景などをふまえて総合的に判断することが大切である。近年の微生物検査は、質量分析法や全自動PCR検査装置が導入され、大きな変化を遂げている。この変化の中で当院が実際に経験した症例や結果報告に迷った事例をお示しし皆様と情報共有できればと思う。10:25~11:25講演会場:第3会場A(602号室) 視聴会場:第3会場B(603号室)テーマ「微生物検査」この検査データおかしくないですか?細菌検査のピットフォール

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