埼臨技会誌 Vol.68
62/138

アドバンスセミナー4血清・生理・病理・細胞テーマ「分野の壁をこえて~甲状腺疾患を紐解く~」3. 細胞診は甲状腺結節病変診療の鍵を握る!座長:岡村 卓哉(獨協医科大学埼玉医療センター)講師:《病理・細胞》加藤 智美(埼玉医科大学国際医療センター)甲状腺における穿刺吸引細胞診(fine needle spiration cytology:FNAC)は簡便で侵襲性が低いこと、質的診断精度が針生検(組織診)とほぼ同等であること、医療コストが低いことなどから、診断法の第一選択となる。すなわち、細胞診判定の結果により次のアプローチ/手段が決まり、場合によっては治療法の決定に直結する。充実性結節(5 mm以上)がみられた場合はFNACが推奨される。最初に検体の適正・不適正かを判断し、適正の場合は判定区分、細胞所見、推定病変を記載する本邦独自の「報告様式」が、甲状腺取り扱い規約第8版によって示されている。検鏡する際には、材料の構成成分(細胞量・コロイドの有無)、背景(コロイドの性状・炎症性・嚢胞性・壊死性)、採取細胞の出現様式(乳頭状・濾胞状・シート状)、細胞質(好酸性変化・扁平上皮分化)および核所見(核内細胞質封入体・核溝・微細顆粒状/すりガラス状クロマチン)を詳細に観察し総合的に判定する。本発表では、橋本病および乳頭癌を取り上げる。多くはびまん性に甲状腺が腫大するが結節を生じることがある。リンパ濾胞形成および濾胞上皮細胞の腫大と好酸性変化を特徴とする。核の大小不同や核小体が目立つ場合がある。背景のリンパ球は小型が優位を占めるが、橋本病に合併して悪性リンパ腫(多くがMALTリンパ腫)が発生することがあるため、しばしば鑑別が問題となる。好酸性細胞の出現やリンパ球の出現様式と異型の有無が留意点となる。60細胞採取量は比較的豊富であることが多い。腫瘍細胞は乳頭状、濾胞状、シート状集塊で出現する。核は密集および重畳し、特徴的な核所見(微細顆粒状/すりガラス状クロマチン、核内細胞質封入体、核溝、分葉核)を呈する。一方でこれらの所見は、腺腫様甲状腺腫、硝子化策状腫瘍といった腫瘍でも観察される。また、砂粒体、ローピーコロイド(チューインガムを引き伸ばしたような)、多核巨細胞などの背景所見も乳頭癌を示唆する重要な所見である。一般に細胞診は組織診の補助的な役割を演じると思われがちであるが―甲状腺がよい例であるように―細胞診が組織診に取って代わることがある。適切な穿刺・塗抹・標本作製を前提として、なかんずく精度の高い診断を提供することを、我々細胞検査士は常識のごとくに求められている。10:15~11:45講演会場:第1会場A(401号室) 視聴会場:第1会場B(402号室)橋本病乳頭癌

元のページ  ../index.html#62

このブックを見る