埼臨技会誌 Vol.68
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 臨床病理カンファレンス(CPC:Clinicopathological Conference)は,臨床医や医学部学生のための優れた教育方法の一つです.CPCでは,最初に病歴と身体所見から可能性のある多くの病態・疾患を考え,次に画像検査と検体検査所見を参考に鑑別診断を進め,臨床診断,治療方針,治療効果などについてカンファレンス参加者が討論をし,最後に病理解剖所見と比較検討し,医療行為を振り返り,医療の質の向上をはかることを目的にしています. これに対してRCPC(Reversed CPC)は,まず臨床検査成績のみが与えられ,検査データのみからできるだけ患者の病態を深く掘り下げて考えてみようとするものです.最後に臨床経過(と剖検所見)を提示し臨床検査データと比較します.限られた検査データのみから最大限の情報を読み取り同時に臨床検査の限界を知ることができる知的訓練法です.すなわち検査成績から病態解析が可能な範囲と限界を知り,併せて病歴情報と身体所見の重要性を自覚できるようになることも教育目標の一つです. わが国で,初めてのRCPCは1965年に日本臨床病理学会(現・日本臨床検査医学会)関東支部第3回例会で公開されました.私の恩師である故 土屋敏夫日大名誉教授らが企画し,米国で臨床検査専門医(Clinical Pathologist)の資格を取って帰国されたばかりの新進気鋭の3名の医師により米国での研修で経験した症例の解説がされました.この3名の中のお一人が河合 忠先生(自治医科大学名誉教授)です. 河合先生は,翌年,1966年に日本大学に赴任し,1967年度から医学部学生のためRCPCを開始しました.当時,私はまだ医学部の学生でした.医学生時代に,米国帰りの本物の臨床検査専門医から直接,教育を受け,その一環としてRCPCを何回も体験できたことは,私が臨床検査専門医として,米国に比べ著しく遅れを取ったわが国の医学教育の改革に多少なりとも参加できたと自負しているとともに,私の人生に大きな影響を与えたことを,最近,特に強く感じています. 更に特記すべき事項として,日本大学や順天堂大学などの医学部学生を対象としたRCPCは,1970年から2009年まで日本医事新報ジュニア版(無料配布)に連載され,RCPCの普及に貢献しました. RCPCは,他の大学医学部,医科大学にも普及し,今日では,出題方法や解説の仕方にも創意工夫がされ,変貌を遂げて多様になり,臨床検査の関連の学術集会,研修会などでも広く実施されるようになりました. 2009年,熊坂は日大から上尾中央総合病院に移籍し,2010年には第47回関東甲信地区医学検査学会で,熊坂の出題と司会によるRCPCが,さいたま市のソニックシティで開催されました. 今回のRCPCはコロナ禍の中,2010年と同じ会場で実施されますが,学会場に来られない多くの臨床検査技師の方にもWebを利用した新しい時代のRCPCを体験していただけたらと思います.50医療法人社団愛友会 上尾中央総合病院診療部 臨床検査科 科長/感染制御室 室長臨床検査専門医はじめに~わが国におけるRCPCの歴史を振り返り~講演会場:第3会場A(602号室)視聴会場:第3会場B(603号室)学会企画 (13:30~14:30)RCPC ~出題と解説~熊坂 一成

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