埼臨技会誌 Vol.68
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微生物DNAを抽出し,黄色ブドウ球菌特異的耐熱性ヌクレアーゼ遺伝子とmecAをPCR法で確認した.環埼玉県下環境由来および臨床由来ESBL産生Escherichia coliの分子疫学的解析◎山本 美紅1)、村井 美代1)、岸井 こずゑ1)◎山本 美紅1)、村井 美代1)、岸井 こずゑ1)埼玉県立大学 健康開発学科 検査技術科学専攻1)埼玉県立大学 健康開発学科 検査技術科学専攻1)◎安田 理乃1)、西沢 匠央1)、園田 康雄1)、岸井 こずゑ1)、村井 美代1)◎安田 理乃1)、西沢 匠央1)、園田 康雄1)、岸井 こずゑ1)、村井 美代1)埼玉県立大学 健康開発学科 検査技術科学専攻1)埼玉県立大学 健康開発学科 検査技術科学専攻1)103下水環境における黄色ブドウ球菌の分離とMRSAの経時的変動の解析【はじめに】世界的に問題となっている薬剤耐性菌の一つである,基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)を産生する細菌は,日本でも急激に分離数が増加しており,市中環境と臨床の垣根を超えた感染制御が強く求められている.本研究では,環境及び臨床由来ESBL産生Escherichia coliの遺伝子型を決定して比較を行い,薬剤耐性とその伝播についての総合的理解を深めることを目的に調査を開始した.今回は手始めにここ半年で得られた結果について報告する.【対象と方法】埼玉県の下水処理場1カ所にて2020年10月から12月までに採水した下水より抽出された環境由来ESBL産生E.coli, 当該下水処理場の流域下水道処理区域内の病院から同時期に提供された臨床由来ESBL産生E.coliを対象とした.環境由来株では,CTX 4μg/mLを添加したTBX agarによってCTX耐性菌を選択した後,multiplex PCRによりESBL遺伝子型グループを決定した.臨床由来株も同様に遺伝子型グループを決定した.【はじめに】日本におけるMRSAの分離率は,AMRアクションプラン策定後緩やかに減少しているものの,2020年の目標値20%を大幅に上回っており依然として高い.従って病院に限らず環境調査を含めたワンヘルス・アプローチをもとに,健常保菌者を含めた包括的な調査が求められる.本研究では,生活排水である下水から分離された黄色ブドウ球菌に占めるMRSA分離率変動を解析し,現在のMRSA蔓延状況の把握を目的とした新たな疫学調査法としての可能性を検討した.【対象と方法】埼玉県の下水処理場1カ所にて2020年10月から2021年6月まで2ヶ月毎に採取した下水(流入水)1Lを対象とし,下水原液0.1 mlを黄色ブドウ球菌の選択分離培地X-SA(ニッスイ)に塗布し,増殖してきた青色コロニーを50個分離,再度X-MRSA(ニッスイ)に穿刺して増殖した菌株をMRSAと判定した.さらに対象菌株から,Q1Aamp DNA Mini kit(QIAGEN)を用い,送付のプロトコールに従って【結果】環境由来ESBL産生E.coliについては,CTX-M-9Gを保有している株が1株,CTX-M-1Gを保有している株が6株,PCR産物を得られなかった株が1株であった.臨床由来ESBL産生E.coliについては,CTX-M-9Gを保有している株が9株,CTX-M-1Gを保有している株が3株,CTX-M-9G及びCTX-M-1Gの両者を保有している株が1株,PCR産物を得られなかった株が2株であった.環境株,臨床株ともTEM型βラクタマーゼを同時保有している株が多数見られた.【考察】臨床由来株および環境由来株で共通している遺伝子型も検出されたが,両者の遺伝子型の割合には差異がある結果となった.今後は更に検体数を増やし,臨床と環境の両面から注意深くモニタリングを行う予定である.両者の薬剤耐性遺伝子伝播状況を正確に把握しその特徴を理解した上で比較検討を行うなど,包括的な調査を進めたい.連絡先:048(973)4727(直通)【結果と考察】黄色ブドウ球菌は下水から平均112CFU/ml分離された.MRSAの平均分離率は15.82%で,33.33%から5.26%まで月ごとに差が見られた.2019年厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の集計で黄色ブドウ球菌全体に占めるMRSA分離率は入院患者検体で47.7%,外来患者検体で30.0%であった. また本研究室で2016~18年に調査した若年健常者のMRSA保菌率は2.0%であった.下水から分離されたMRSA分離率は患者と若年健常者の間を示したことから, 下水道の処理区域居住者の全体像把握に有用であると推測された.今後は,分離されたMRSA株のDNA型別や薬剤感受性パターンを臨床分離株と比較し検討する予定である.連絡先:048(973)4728(直通)微生物EntryNo. 98微生物EntryNo. 95分子疫学的解析学微-16環埼玉県下環境由来および臨床由来ESBL 産生Escherichia coli の学微-17下水環境における黄色ブドウ球菌の分離とMRSAの経時的変動の解析

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