埼臨技会誌 Vol.68
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微生物【はじめに】Listeria monocytogenesは人獣共通感染症として問題となるグラム陽性桿菌である.健常成人であれば無症状か軽症で経過するが,妊婦が罹患し胎児に感染すると流産,早産,子宮内胎児死亡となり予後不良である.今回,妊娠初期でのリステリア菌血症を経験したので報告する.【症例】30歳代女性,2経妊1経産.既往歴B型肝炎キャリア.妊娠13週4日に発熱,頭痛のためかかりつけ産科を受診し,CFPN-PIが処方され内服するも症状は改善せず,妊娠14週2日当院に緊急入院となった.【検査所見】WBC 3.2×103 /µL,RBC 388×104 /µL,Hb 12.2 g/dL,PLT 9.0×104 /µL,AST 95 IU/L,ALT 85 IU/L,CRP 7.93 mg/dLと汎血球減少,炎症反応上昇,肝機能値の上昇がみられた.【細菌学的検査】入院時に採取された血液培養はBACTEC FX(日本BD)で培養した.翌日4本中3本が陽転し,塗抹検査でグラム陽性桿菌を認めた.特徴的な形態から Listeria spp.を疑い直ちに産科当直医に連絡した.FilmArray血液培養パネル(ビオメリュー・ジャパン)でPCR検査を実施し, L.monocytogenesの菌名が得られた.継代培養翌日【はじめに】Schizophyllum communeは分生子形成がなく同定困難であるが,糸状菌との検査報告では臨床診断に貢献し難い.近年,質量分析装置が同定を可能とし症例は増えている.今回我々は,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症が疑われたS.communeを経験したので報告する.【症例】患者:72歳,男性.既往歴:気管支喘息,糖尿病.現病歴:2013年気管支拡張病変内に粘液栓を伴う陰影を認め,2018年頃より陰影の増悪と治療軽快を繰り返した.2021年1月増悪時,投薬治療困難になったことから紹介受診となった.同年3月,気管支鏡検査が入院施行され,気管支洗浄液と検査時吸引痰が提出された.【細菌学的検査】検体は3,000rpm,20分遠心し,一般細菌培養検査,抗酸菌培養検査に供した.真菌培養は,ポテトデキストロース寒天培地(栄研化学)で,35℃好気的条件下18~20時間,その後は室温で培養観察した.5日後,糸状菌(2+)の発育が見られ,スライドカルチャー,巨大培養を行った.スライドカルチャーは豊富に菌糸を認めたが,頂嚢(-),頂嚢以にはヒツジ血液寒天培地(極東製薬工業)に灰白色の半透明で弱いβ溶血を示すコロニーを認めた.ドリガルスキー改良培地(栄研化学)にも発育を認め,カタラーゼ試験は陽性であった.またWalkAway96plus(ベックマン・コールター)でも L.monocytogenesと同定された.【経過】入院当初は伝染性単核症を疑い,抗菌薬の投与はなかった.菌名報告後,伝染性単核症で禁忌のABPCを避け,MEPM投与開始となった.入院5日に子宮内胎児死亡.入院6日死産分娩となり,臍帯と胎盤の培養検体が提出され,両検体からL.monocytogenesの発育を認めた.入院6日に伝染性単核症が否定されABPC+GMに変更された.また同日に提出された髄液は培養陰性であった.入院9日,軽快退院となった.【考察】L.monocytogenesによるリステリア菌血症はわが国では報告が少ないが,妊婦は感染リスクが高く,胎児と母体の致命率が高いとされる.本例は塗抹検査でListeria spp.を疑い,直ちにPCR検査を実施できたことで迅速に菌名報告でき,早期の治療開始に貢献できたと考えられる.連絡先048-965-2221(内線2255)外の分生子形成も認められなかった.巨大培養4日目の白い綿毛状コロニーにも同定に至る特徴は見られなかった.糸状菌(2+)と専門施設への同定依頼の要可否を求めるコメントを付記し最終報告とした(主治医への口頭相談もしている).【考察】本症例は,初代分離培養の培地直接鏡検からシュウ酸カルシウム結晶が観察された.Aspergillus nigerに特徴的な所見でS.communeの報告例はあまりない1).分生子形成のない糸状菌同定の追求は,かかる時間と労力から諦めてしまいがちであったが,同定し易くなって来ており症例も増えているため,積極的に進めることも大切である.謝辞:菌株を同定精査いただきました千葉大学真菌医学研究センター臨床感染症分野亀井克彦先生に深謝いたします.文献:1) 藤田美津子,他.2020. Schizophyllum commune (スエヒロタケ)によるアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の1 例.日本臨床微生物学会誌30(3):33-37.◎神成 千晴1)、千葉 明日香1)、松内 萌1)、稲垣 理絵1)、前田 友子1)、高村 さをり1)、石井 直美1)、◎神成 千晴1)、千葉 明日香1)、松内 萌1)、稲垣 理絵1)、前田 友子1)、高村 さをり1)、石井 直美1)、渋谷 賢一1)渋谷 賢一1)越谷市立病院1)越谷市立病院1)◎辻 智恵子1)、佐藤 裕太1)、山津 圭子1)、宮内 優太1)、猪浦 一人1)◎辻 智恵子1)、佐藤 裕太1)、山津 圭子1)、宮内 優太1)、猪浦 一人1)埼玉県済生会栗橋病院1)埼玉県済生会栗橋病院1)99Schizophyllum communeによるアレルギー性気管支肺真菌症の一例妊娠初期に発症したリステリア菌血症の1例連絡先0480(52)3611 内線2806微-8微-9Schizophyllum commune によるアレルギー性気管支肺真菌症の一例微生物EntryNo. 42微生物EntryNo. 94妊娠初期に発症したリステリア菌血症の1例

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