埼臨技会誌 Vol67
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尿沈渣中のマルベリー小体検出が診断のきっかけとなったファブリー病の1症例【はじめに】ファブリー病は細胞内ライソゾーム中の加水分解酵素α‐ガラクトシダーゼA(GLA)活性の低下や欠損するX連鎖性遺伝疾患である。当疾患は腎臓や心臓を中心に多臓器に様々な臨床症状を呈する。確定診断が難しく、診療科を跨いでフォローアップされていることが多い。今回、当院患者においてファブリー病と診断された1症例を報告する。【症例】70歳代、女性、既往歴:脳梗塞。当院循環器内科にて肥大型心筋症、うっ血性心不全、心房細動にて治療中であった。心房細動に対し2019年11月にアブレーション予定だったが、10月に労作時息切れ、BNP:2013pg/mLとうっ血性心不全悪化傾向を認め加療目的で入院となった。検査結果 尿定性:比重1.015、pH 5.5、蛋白 +-、潜血 -、糖 -、ケトン体 -、亜硝酸塩 -、白血球 -、尿沈渣:赤血球1-4/HPF、白血球5-9/HPF、扁平上皮1-4/HPF、尿路上皮<1/HPF、尿細管上皮<1/HPF、背景に渦巻き構造を【はじめに】ファブリー病はα-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損または活性低下によりリソソーム内にグロボトリアオシルセラミド(Gb3)が蓄積し,全身の臓器障害を生じる疾患である.腎臓の糸球体への沈着が進行すると尿沈渣中にマルベリー小体という渦巻状を示す脂肪成分が出現する.今回,腎生検により診断がつくまでの尿検査でマルベリー小体を検出できなかった症例を経験した.その原因の解明と,今後の検出率向上のためマルベリー小体の形態的特徴や大きさに着目し,出現率の分析を行った.【症例】30代,男性.20代前半から高血圧を指摘される.2015年健診にて尿蛋白(+)を指摘され,2019年近医を受診し,慢性糸球体腎炎が疑われ当院紹介となる.その半年後に腎生検が施行され,電子顕微鏡検査にてzebra-bodyが多数認められファブリー病が強く疑われ,酵素活性の低下,遺伝子検査の結果から確定診断に至った.【検査所見】2019年12月臨床よりマルベリー小体有無の確認を依頼され尿検査を実施.尿蛋白定量18mg/dl,尿沈渣は赤血球1-2/HPF,白血球,扁平上皮ともに1未満/HPF,マルベリ有する脂肪球様小体を確認しマルベリー小体と判定した。ファブリー病が疑われるため精査の必要性を主治医へ報告し、その後、遺伝子解析よりα-ガラクトシダーゼ遺伝子に変異(ヘテロ接合体)があることが認められたため、ファブリー病と確定診断された。【考察およびまとめ】本症例はファブリー病の確定診断において、マルベリー小体発見がきっかけとなった貴重な症例であった。尿沈渣の重要性を改めて認識した。ー小体を少数認めた.【分析結果】今回の症例において尿沈渣中のマルベリー小体を形態的特徴ごとに,①典型的な渦巻状を示すもの,②微小で中央にくぼみのあるもの,③球状で脂肪滴様のもの,④集塊状のもの(マルベリー細胞),⑤有尾状や変形したものの5つに分類した.これらの成分は,ズダンⅢ染色ではほとんど染色性を示さなかったが,偏光を有すること,①と同様の光沢があることからマルベリー小体と考えられた.出現率は②が約7割を占め,次いで①が多い傾向であった.【考察とまとめ】ファブリー病は早期に治療を開始することで複数の臓器で機能が改善することが報告されている.今回,腎生検により診断がつくまでの尿検査でマルベリー小体を検出できなかった要因として,マルベリー小体の多彩性が考えられ,①以外の成分と他の類似した尿沈渣成分との鑑別が重要である.これらを念頭に置いて鏡検することが検出率の向上,疾患の早期発見につながると考えられた.048-965-1111(内線3208)76マルベリー小体の形態的特徴と出現率の分析連絡先:0480-52-3611 (内線1807)◎角田 美由紀1)、田崎 翼1)、堀口 美佳1)、小関 紀之1)、藤代 政浩1)、中島 あつ子1)、党 雅子1)、春木 宏介1)◎角田 美由紀1)、田崎 翼1)、堀口 美佳1)、小関 紀之1)、藤代 政浩1)、中島 あつ子1)、党 雅子1)、春木 宏介1)獨協医科大学埼玉医療センター1)獨協医科大学埼玉医療センター1)◎大山 絵里香1)、関口 久男1)、村田 知香代1)、竹内 和也1)、猪浦 一人1)◎大山 絵里香1)、関口 久男1)、村田 知香代1)、竹内 和也1)、猪浦 一人1)埼玉県済生会栗橋病院1)埼玉県済生会栗橋病院1)尿沈渣中のマルベリー小体検出が診断のきっかけとなったファブリー病の1症例マルベリー小体の形態的特徴と出現率の分析一般EntryNo. 30一般EntryNo. 33般-1(11:00~11:30)般-2(11:00~11:30)

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