埼臨技会誌 Vol67
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僧帽弁の弁瘤及び穿孔を認めた感染性心内膜炎の一例産褥期に発症した左室内空気塞栓症の1例いており,入院継続し血液培養陰性確認後,抗生剤6週間使用してからの待機手術の方針となった.術中所見では,僧帽弁は前尖の弁腹に約10㎜の弁瘤様の構造物があり,その先端に約5㎜の穿孔が認められた.弁瘤の一部を切除すると,残存組織を縫縮によって修復可能と判断し,直接縫合した.大動脈弁は, 右冠尖の弁尖短縮が著名であり,感染による変化は認められなかったが,高度大動脈弁逆流が存在した事より,生体弁による置換術を施行した.【考察】左室拡大を伴っている事から,右冠尖短縮による慢性大動脈弁逆流が存在し,僧帽弁前尖に吹き付ける偏在した逆流の為に,僧帽弁弁腹が脆弱となり,感染性心内膜炎が惹起され穿孔した可能性が考えられた.【結語】侵襲的な経食道超音波検査が,正確な感染性心内膜炎診断には有用であるが,本症例では非侵襲的な経胸壁心臓超音波検査により障害された弁の性状や穿孔の有無を術前に評価することができ,臨床に寄与する事が可能であった.腔内,子宮筋層内,左腸骨静脈内にairを認める,肺動脈血栓塞栓症無し.[心臓カテーテル検査]冠動脈の有意狭窄は認めず.【経過】CT検査で左室心尖部にairが認められたことから,左室内の空気が冠動脈内に混入,空気塞栓を合併し,一時的な虚血状態になり循環動態が不安定になったと考えられる.排便時の強い腹圧,産褥期も関与して子宮腔内・子宮筋層内にairが侵入し,下大静脈から右房・右室へ,肺動脈から微小シャントを介して肺静脈,左室・冠動脈内に流入した産科的空気塞栓症が疑われた.2日後のCT検査では,左室内や子宮筋層内のairは消失し,8日後に退院した.【考察】胸部症状,心電図の左室自動能の亢進からST-T変化,心臓超音波検査にて左室局所壁運動低下を認めたため,心筋虚血による左室機能不全が疑われた.周産期に発症する左室機能不全は稀であるが,心電図や心臓超音波検査の異常所見を認めた際には様々な可能性があることを念頭に置いて検査を進めることが重要であると考える.          連絡:0480-52-3611(内線 1813)【連絡先】048-782-6910(検査室直通)72【はじめに】感染性心内膜炎は血管内に侵入した細菌や真菌などにより, 菌血症を伴う心臓弁の炎症性破壊を起こす疾患で,時に弁穿孔を合併する重篤な疾患である.今回,感染性心内膜炎による僧帽弁の弁瘤及び弁穿孔を経胸壁心エコーにて評価し得たので報告する.【症例】60歳代男性.発熱,全身倦怠感を主訴に近医を受診.抗生剤を処方され服用すると状態改善するが,また悪寒,全身倦怠感が再燃するといった状態を繰り返した.その後,内服をしても症状が改善せず,当院を紹介受診となった.【検査所見】WBC 13150/μl,CRP 7.09mg/dl,来院時に採取した血液培養2セットから連鎖球菌が認められ,翌日採取した血液培養2セットからも連鎖球菌が認められた.同定の結果,Streptococcus oralisと判明した.心臓超音波検査では,左室の拡大と壁の肥厚.大動脈弁は描出困難であるが,中央から高度大動脈弁逆流を認めた.また,僧帽弁前尖の肥厚と弁腹に弁瘤及び弁穿孔を認め同部位から高度僧帽弁逆流を認めた.各弁に明らかな疣腫は認められなかった.【経過】高度な逆流を認めるが,血行動態,症状ともに落ち着【はじめに】周産期に発症する心不全として,周産期心筋症,冠攣縮性狭心症,肺塞栓などが報告されている.今回,分娩1週間後に胸痛を発症し,左室内空気塞栓症,空気塞栓に伴う冠動脈空気塞栓が疑われた症例を経験したので報告する.【症例および現病歴】33歳女性,経腟分娩は今回を含め2回経験.分娩1週間後,排便中に強く力んだ際に胸痛を自覚,その後,意識消失を認め救急要請された.来院時,意識消失は改善したが胸部症状は持続しており,心筋逸脱酵素の上昇や左室壁運動異常も認めていたことから急性冠症候群も疑われ,緊急心臓カテーテル検査を施行した.【検査所見】[心電図]来院時:心拍数97/min促進性心室固有調律(左室心尖部起源).2時間後:洞調律,Ⅱ,Ⅲ,aVF,V4~V6軽度ST低下(平低T).[血液検査]トロポニンI定量269.3pg/ml,H-FABP定量36.9ng/ml,CK-MB 19U/l,BNP44.4pg/ml[心臓超音波検査]EF42%,中隔-前壁の左室壁運動低下,IVST/PWTd10/10mm, E/e’10.7.心嚢液,ASD,PFO認めず.[CT検査]左室心尖部,子宮◎早川 勇樹1)、高見 智子1)、岩崎 香織1)、谷川 瑞季1)、小野口 晃1)、渡野 達朗1)、尾本 きよか1)◎早川 勇樹1)、高見 智子1)、岩崎 香織1)、谷川 瑞季1)、小野口 晃1)、渡野 達朗1)、尾本 きよか1)自治医科大学附属さいたま医療センター1)自治医科大学附属さいたま医療センター1)◎東江 秀太朗1)、関口 知詠子1)、大山 英美1)、神澤 和樹1)、若松 智子1)、佐野 恵1)、御手洗 友海1)、猪浦 一人1)◎東江 秀太朗1)、関口 知詠子1)、大山 英美1)、神澤 和樹1)、若松 智子1)、佐野 恵1)、御手洗 友海1)、猪浦 一人1)埼玉県済生会栗橋病院1)埼玉県済生会栗橋病院1)僧帽弁の弁瘤及び穿孔を認めた感染性心内膜炎の一例産褥期に発症した左室内空気塞栓症の1例生理EntryNo. 38生理EntryNo. 47生-13(10:30~11:00)生-14(10:30~11:00)

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