埼臨技会誌 Vol67
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62免疫血清分野の検査は、腫瘍マーカーやホルモン、感染症関連検査など、生体内における微量成分検出のため、抗原抗体反応を利用して測定を行っている。測定法としてはRIA、EIA、蛍光法(FEIA)、発光法(CLIA、CLEIA、ECLIA)が該当する。近年測定機器の性能は向上し、特異性や検出感度の向上、検体微量化、測定時間の短縮化など、臨床に大きく貢献している。だが、測定機器の性能が向上したとはいえ、免疫検査にはピットフォールが付き物である。ピットフォールとは、測定した検査結果が目的外あるいは予想外の思わぬ結果に遭遇してしまうことを言う。免疫反応は抗原抗体反応を利用するため、多種多様な物質の影響を受け、非特異的な反応を生ずる可能性があるため、ピットフォールを念頭に置きながら検査を行っていくことも大切である。ピットフォールは様々あり、検体に起因する場合(異好抗体、自己抗体、HAMAによる非特異反応)、検体処理や検体の状態、測定原理、薬剤etc…といろいろな要因やタイミングで発生する。また一部のピットフォールは機器精度管理を正しく行っていたとしても発見することは困難であり、関連検査との結果の矛盾、初回値と再検値との不一致、前回値との乖離などから気づくことがあり、また臨床側からの指摘で発覚することもしばしばある。今回はそのような日常的に遭遇するであろう代表的なピットフォールの原因やその対処法、発見の糸口などを紹介する。今回の講演が皆様の日常の免疫検査において少しでも貢献できるようなものであれば幸いである。肝炎とは、肝臓に炎症が発生し、肝細胞が壊れることで発熱、黄疸、全身倦怠感等の症状を来す疾患である。機能障害を起こした状態であり、原因としては、ウイルス、薬物、アルコールや自己免疫等がある。このうち、ウイルス性肝炎は、日本では肝炎の原因として一番多く、肝炎ウイルスが感染した肝細胞と、細胞傷害性T細胞による自己免疫反応によって炎症が惹起され、肝細胞が障害される。ウイルス性肝炎は、主に5種の肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型)により引き起こされ、急性肝炎(一過性感染)と慢性肝炎(持続性感染)に大別される。急性肝炎は、A、B、E型によるものが多く、ほとんどが一過性で自然治癒するが、稀に劇症肝炎を引き起こす。慢性肝炎は、B、C型によるものが多く、長期間軽度の肝障害が続くことで肝細胞の繊維化が進み、最終的には肝硬変や肝がんへ進行する場合がある。D型はB型の感染下でのみ慢性肝炎を引き起こすが、海外に多く、日本ではほとんど見られない。これらのウイルス感染や治療経過を判断する上で肝炎ウイルスマーカーは有用である。今回の講演では、肝炎ウイルスの中で特にB型肝炎ウイルス(HBV)マーカーについて述べる。B型肝炎にはいくつかのウイルスマーカーがあり、それぞれの持つ意味を理解することが大切である。主なHBVマーカーには、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HBe抗原、HBe抗体、HBV-DNA定量があり、これらを組み合わせることで患者のHBV感染状態を把握することができる。フローチャート式に述べると、①HBs抗原が陽性の場合、一過性感染またはHBVキャリア(持続性感染)が考えられ、HBV-DNA定量検査でHBV量を確認して治療へ進む。HBVキャリアの場合、HBe抗原・HBe抗体の測定結果がその後の経過観察と予後の推定に重要となる。②HBs抗原が陰性の場合、HBs抗体・HBc抗体を測定する。(A)両方陽性の場合は、既往感染状態となり、(B)HBs抗体単独陽性の場合はワクチン接種による抗体出現が考えられる。(C)両方陰性の場合はHBV非感染状態である。このように、HBVマーカーはB型ウイルス性肝炎の診断に有用であるが、稀に、既往歴やHBVマーカーの組み合わせから推論される結果と実際の測定結果が異なることがある。その時、どう考えればいいか、この講演を参考にして、実際の臨床の現場で役立てていただきたい。ピットフォール・肝炎検査講演会場:第3会場A(603号室)/視聴会場:第3会場B(604号室) 14:50~15:30「肝炎について」座長:菅野 佳之(埼玉医科大学保健医療学部)講師:渡辺  剛(埼玉医科大学総合医療センター)   大阪 圭司(埼玉医科大学国際医療センター)「免疫検査におけるピットフォール」免疫検査におけるピットフォール・肝炎検査

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