埼臨技会誌 Vol67
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59経胸壁心エコー検査は、非侵襲的に心臓の形態、動態、血行動態を把握できることから、あらゆる心疾患において、多くの臨床シーンで実施される。すなわち、その検査目的は多彩であり、検査担当者には検査目的を十分に理解し、それに応える明瞭で客観的な画像記録と、得られた情報を正しく分かりやすく伝えるレポートの作成が要求される。心エコー検査の依頼目的は、依頼時に担当医師から検査担当者に明快に伝えられることが望ましい。検査担当者が検査目的を正確に把握していることは、検査の成否をも左右する重要な事項である。しかし、心エコー検査が心電図や胸部レントゲンと同様のごく一般的な検査となった現在では、循環器科、他科を問わず、そのことを理解していない医師も少なくなく、十分な検査目的が記されていない依頼を受けることも多い。したがって、とくに検査目的が明確でない依頼については、検査担当者は必要に応じて医師に確認すべきであるし、検査開始前にカルテや他院からの紹介状、他検査のデータなどもチェックし、さらに患者からの問(診)、視(診)、聴(診)などにより、検査目的を推察できる能力も備えておくことが必要である。心エコー検査を効率よく看過なく実施するためには、一定の手順に沿った検査を行うよう心掛けることが重要である。この手順の中で検査目的に応じた必要十分な情報が得られることはもちろんであるが、各疾患の重要な所見は、ズームなどで強調した記録を残すことも客観的で説得力のある記録となる。また、手順の中で想定していなかった所見が得られた際には、その所見の原因となる病態や疾患を考え、それを証明するために必要な断層像や計測を追加し、その疾患や病態に特異的な他の所見を探し出すことになる。すなわち、検査担当者が、ひとつの所見から想定される病態や疾患の引き出しを、どれだけ多く持っているかが重要となる。心エコー検査において各種の計測は大きなウェートを占める。しかし、検査の主体はその患者の病態や疾患を明らかにすることであり、計測値はあくまでもそこに客観性を与えるデータである。ときに計測することばかりに囚われている検者を見かけることがあるが、検査の本質を見失った行為である。また、計測値を優先するあまり、断層像から得た自分の印象を無視してしまうことも見受ける。この場合には再計測をしたりしてその原因を確認する必要がある。計測できないものは計測しない(計測できないと言う)勇気も重要であるし、計測したデータの信頼性を吟味し、採用する否かを判断することも検査手順の一段階である。また、心エコー検査の記録や計測方法や判読基準を各種ガイドラインに基づいて実施することは、精度向上や統一化・標準化の上できわめて重要である。近年、複数の学会から提唱されたいくつかのガイドラインは、これまで蓄積された多くのデータや理論が明確に整理され、実際の臨床現場で真に役立つ内容である。これらのガイドラインを遵守しながら、正確な記録・計測と根拠に基づいた心エコー診断に努めることが重要である。心エコー検査の最後にあるのがレポート作成である。心エコー検査でどんなに明瞭な画像を記録していても、正確な計測がなされていても、最後のレポートが不完全であったなら、検査で得られた情報が担当医師に十分に伝わらず、検査を診療に活かすことができない。すなわち、レポートは担当医の依頼に対する検査担当者からの返信であり、得られたデータを根拠として、エビデンスに基づいた考察がなされ、検査目的に応える回答が記載なされなければならない。レポート作成における主な注意点として、①不確かな計測値は記載しない、②数値の限界を理解し、それに基づいたコメントが記載されている、③年齢や体格が考慮されている、④治療方針や次の検査が考慮されている、⑤経過観察では前回値との比較がなされている、⑥壁運動が図示されている、⑦検査目的に応えるコメントが記載されている、⑧他科の医師にも理解できる用語を用いる、などがある。最後に、心エコー検査が依頼する医師と検査を担当する技師の信頼関係の上に成り立つことは言うまでもない。普段から良好なコミュニケーションを築いておくことはもちろんであるが、医師からの信頼が得られるよう、症例検討会や学会、研修会などに積極的に参加して知識習得に努め、また、超音波装置の能力を十分引き出すために、使用装置の特性を十分に理解し、かつ普段から走査技術の研鑽にも励んでおかなければならない。心臓超音波検査講演会場:第2会場A(602号室)/視聴会場:第2会場B(601号室) 14:40~15:40座長:早川 勇樹(自治医科大学附属さいたま医療センター)講師:戸出 浩之(獨協医科大学埼玉医療センター)心エコー心得

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