埼臨技会誌 Vol67
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1.はじめに染色体検査は、ダウン症などの生殖細胞変異の検索や造血器腫瘍の体細胞変異の解析技術として臨床利用されている。検査は細胞培養、標本作製、G分染、核型分析、報告書作成の工程で実施し、大多数の施設が自家調整試薬と用手法でおこなっている。煩雑な検査工程は内部精度管理により監視し、検査過誤対策として各工程の管理や数人によるチェック体制が必要となる。また核型分析では、分染像の判読に経験と核型記載の国際規約を十分に習熟しておくことが求められ、最新の知識を習得するために常に自己研鑽が必要である。今回、染色体検査従事者を認定する「認定臨床染色体遺伝子検査師制度、染色体分野」について紹介する。2.認定臨床染色体遺伝子検査師制度とは本制度は、日本染色体遺伝子検査学会(以下、学会)の前身である日本染色体検査学会により、1990年に発足した「染色体分析一般技術認定」を原点とする。その後、2004年に名称を「染色体分析技術認定」へ改めた。2006年、同様に染色体分野の認定制度である「臨床細胞遺伝学制度」を実施している日本人類遺伝学会、日本臨床衛生検査技師会(以下、日臨技)、学会の3団体で認定制度の一元化に向けた協議をおこなった。しかし、日臨技と日本人類遺伝学会で合意できず、学会と日臨技で2007年に「認定臨床染色体遺伝子検査師」制度を発足させた。学会には日臨技非会員も属することから、非会員は学会の規定で受験可能とした。当初は染色体検査分野のみであったが、2009年から遺伝子分野の認定を開始した。遺伝子または染色体分野から選択して受験し、検査を実施するうえで必要な専門知識と高度な技術を評価するため、筆記試験と実技試験で評価する。3.認定臨床染色体遺伝子検査師の現状と役割本制度の到達目標は1)専門知識および高度な技術に対応できる検査資格者を育成する2)染色体遺伝子検査の発展と普及を促進する3)精度保証を通して医療の安全性と患者の安心を守り国民医療の向上に寄与する、として設立された。本制度を通して、専門的で高度な資質を持つ検査者の育成、施設のレベル向上、検査結果の精度保証と正確性を担保できることとなる。受験資格は日臨技からの受験者には、日臨技生涯教育研修制度修了者で臨床検査技師として3年以上の勤務、1年以上の実務経験が必要である。また、学54会からの受験者は学会に3年以上在籍していることが必要である。併せて、学術活動として学術審査基準30単位以上の取得が必要である。試験は本認定制度規則のカリキュラムで規定した内容を学習し、筆記試験は50問が出題され、遺伝子分野との共通問題25問と専門分野25問からなる。なお、2019年に発刊されたJAMTシリーズの「遺伝子・染色体検査技術教本」が推薦図書となっており十分に理解しておかなければならない。実技試験では、基本事項を理解・習熟し日常の業務を正確に行う能力を習得しているか評価する。先天異常と造血器腫瘍から各1症例についてカリオグラムの作成、核型を回答し完全正解であることを原則としている。これまで13回実施した染色体分野の受験者は平均4名(最少1名~最多11名)、合格率は約61%(最低0%~最大100%)で年度によりバラツキがある。また、遺伝子分野の合格率は59%と同等である。2020年現在の認定取得者は、更新者を含めて染色体分野44名、遺伝子分野54名の合計98名である。認定制度の役割は1)個人の知識と技能が一定水準あることを第三者機関が保証する2)精度管理の充実に基づいた検査施設データの保証がおこなえる、などがある。認定資格取得に向けた学習は、研修会や学会などにおいて継続した自己研鑽が求められ、基礎的内容から最新情報を学習する機会となる。さらに、更新までの5年間に基準単位を取得することは学術集会、地区開催セミナー、関連学会への参加など継続した学術活動の参加への動機づけとなる。また、施設内における後進育成への指導や教育に責任と義務を担うことは、自らの学習と技術を見直す機会となる。4.今後の課題これまでの不合格者は、筆記試験の基準は満たすが実技試験で不合格となる例が多い。施設で経験できない症例を経験する機会として、学会で実施しているフォトサーベイが役立つため、積極的な受験を促したい。また、医療機関で実施する施設が減少する中、臨床検査会社の検査者に資格取得への認識を高めることが必要である。医療機関の検査者は、臨床医のみならず看護師や遺伝カウンセラーと関係を持つ機会も多く、他の医療者と積極的に関わる必要がある。検査工程の管理のみならず、分析結果の解釈に必要な情報収集能力、それに基づいて医療者に平易な説明ができるコミュニケーション能力などを満たした認定師の育成に努めなければならない。遺伝子・染色体講演会場:第4会場A(906号室)/視聴会場:第4会場B(905号室) 9:30~11:00座長:松岡  優(埼玉医科大学病院)講師:園山 政行(株式会社ビー・エム・エル総合研究所)「認定臨床染色体遺伝子検査師制度」染色体分野について

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