53遺伝子関連検査は、解析技術と分子生物学の進歩により疾患と遺伝子異常との関連性が解明され、これまで日常検査として行われてきた感染症や造血器腫瘍、固形腫瘍などの検査に加え、がん遺伝子パネル検査などゲノム医療への応用が進められている。現在は、結核菌や肝炎ウイルスなど体外診断用医薬品(IVD)で実施している検査と各施設で独自に開発した自家調整試薬(LDT)を用いて検査を実施している。遺伝子関連検査の工程は測定前プロセス、測定プロセス、測定後プロセスの3工程がある。測定前プロセスでは検体の採取と保存、核酸抽出、測定プロセスでは核酸の増幅と検出、そして測定後プロセスでは結果の判断と解釈についての評価と管理が必要となり、検査の精度保証には必要不可欠であり、特にLDT法で実施した場合には重要である。遺伝子検査の材料としては血液や骨髄液、喀痰や尿、未染スライド、パラフィン切片、組織など様々な材料が対象となる。また遺伝子検査にはDNAを用いた検査とRNAを用いた検査があり検査の目的によって行われる。RNAは細胞や汗、唾液などに存在するRNaseにより分解を受け易いため、検体採取後は、できるだけ速やかにRNAを抽出し操作中は必ず手袋やマスクを着用し、できるだけRNAを分解させないかがポイントになる。また、ホルマリン固定された組織やパラフィン包埋した組織から検査を行う場合には、DNAの断片化が検査結果に大きく影響するため、適切な検査を行うためには断片化の少ない良質のDNAを確保することがポイントとなる。核酸の抽出は検査結果に大きな影響を及ぼす。例えば、抽出が不十分な時には回収率が低下やPCR反応の阻害が生じ、偽陰性又は検査不能となってしまう。そのため、正確な検査を行うためには質的・量的な技術の均一化(標準化)が重要となり何時行っても同じ精度を維持することがポイントとなる。また、臨床検体では①核酸の分解度の評価②阻害物質の有無の評価が必要となる。評価方法としては吸光光度計、アガロース電気泳動法、Real time PCR、RIN・DINといった方法があるが、個々に長所と短所がある。例えばFFPE試料では核酸の分解の影響が考えられるためRIN・DINを用いて核酸の分解を評価するなど個々のニーズに適した方法で評価することがポイントとなる。遺伝子検査は核酸の抽出・増幅・検出などの工程があり、各工程の精度管理をしっかりと行う事がポイントとなる。精度管理の方法としては“管理試料を用いる方法”と“内在性コントロールを用いる方法”がある。前者は検体と同時に管理試料を測定することで、測定(増幅・検出)が適正に行われているかを評価する。管理試料の値が管理値からはずれた場合には、①人為的ミス、②装置の不具合、③試薬の劣化などの要因が考えられるため状況を判断して適切に対処する必要がある。管理試料としては陽性コントロール、陰性コントロール、試薬盲検試料を用いる。また、遺伝子検査は、抽出した核酸の質が検査結果に大きく影響を及ぼす。特に臨床検体では治療薬等による影響でPCR反応が十分に得られず、偽陰性の原因となる。そのため核酸の質を評価する為に検出対象の遺伝子と同時に内在性コントロールを測定して内在的な影響を評価することが必要となる。検査の精度と品質の保証には特に“適正に測定系を立ち上げる事”と“人材育成”が重要である。LDT法は測定法が確立されていないため導入する際には臨床的妥当性及び分析的妥当性を十分に検証し、検査の質を保証する必要がある。導入時に妥当性の検証をしっかりと行う事がポイントとなる。また、遺伝子検査では、核酸の抽出操作、試薬調整、PCRの操作など多くの技術が必要となり、適切に行われない場合には結果にも大きく影響を及ぼす。検査を行うに当たっては十分なトレーニングを行いしっかりと技術を習得する。また、継続的に安定した技術を担保するためには定期的に技術の評価を行う事がポイントとなる。近年、遺伝子関連検査はがん遺伝子パネル検査などゲノム医療への貢献やここ最近話題となっているCOVID19PCR検査など今後も遺伝子関連検査を取り巻く環境は、めまぐるしく変化し臨床現場からの需要や要求も増え対象も拡大しつつある。このような事をふまえ今後は益々検査精度の確保がこれまで以上に求められ、それらの要求事項を満たす為には、しっかりとした技術の習得、内部・外部精度管理の実施が必要であり、それには研修会への参加、各種認定試験の取得などを積極的に行い個々のスキルアップがポイントとなる。遺伝子・染色体講演会場:第4会場A(906号室)/視聴会場:第4会場B(905号室) 9:30~11:00座長:松岡 優(埼玉医科大学病院)講師:南木 融(筑波大学附属病院 検査部 臨床検査技師長)遺伝子関連検査を行うために大切なポイント
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