埼臨技会誌 Vol66
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【はじめに】 WHOによる結核蔓延状況を示す定義では、結核低蔓延国は罹患率が人口10万人当たり10以下、中蔓延国が20以上100以下、高蔓延国は100以上とされている。我が国における2017年の人口10万人当たりの結核罹患率は13.3であり、16,789人の患者が報告されている。近隣アジア諸国(中国:55、韓国:72、ベトナム:108、フィリピン:322、など2016年統計)に比べ低い水準にあるものの、他の先進国の水準(米国:2.7、カナダ:4.8、デンマーク:5.1、オランダ:5.2、オーストラリア:5.7、イタリア:6.4、など2016年統計)にはおよばず、中蔓延国に位置づけられる。「結核に関する特定感染症予防指針」では「2020年までに罹患率10以下(低蔓延国化)」を成果目標として掲げており、様々な課題に取り組んでいる。 結核撲滅には言うまでもなく患者の早期発見、早期治療開始が重要となる。迅速かつ適切な検査が必要であり、微生物学的検査(結核菌検出)に関しては大きく分けて(1)塗抹検査、(2)培養検査、(3)遺伝子検査があり、喀痰を中心とした口腔気道系材料が多くを占める。 一方で、現在発病はしていないものの、将来的に発病する可能性を有する潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection:LTBI)に対する治療も指針が策定され、積極的に行われるようになっている。潜在性結核感染症は、結核の臨床的特徴を呈していないが、医師が画像所見以外の方法により、結核の無症状病原体保有者と診断し、かつ、結核医療を必要とすると認められる場合には、届出が必要となる。潜在性結核感染症は微生物学的検査で発見することはできず、従来ツベルクリン反応が使用されていたが、近年では血液を検査材料としたIGRA(Interferon-Gamma Release Assay)が主流となっている。潜在性結核感染症患者を発見し、発病を防ぐための治療を行うことも結核撲滅には重要なことである。 日本で承認されているIGRAには二種類の方法があるが(クォンティフェロン・T-SPOT)本セミナーにおいては、 クォンティフェロンを中心に歴史を振り返り、基礎的な内容や結果の解釈、今後の展開について情報を共有したいと思う。【クォンティフェロンの歴史】 結核感染診断検査であるクォンティフェロンの最大の特徴は、BCG接種歴や非結核性抗酸菌症による影響を受けないことである。古くから行われているツベルクリン反応は、結核菌に感染していなくても前述の条件如何では、感染している場合と同様の反応(発赤や腫れなど)がおこり、結核感染の有無を明確に判断できない可能性がある。それらの問題点を解消すべく登場したクォンティフェロンは、第一世代にはじまり現在第四世代まで進化している。(※日本では第二世代より使用)第二世代 2005年 QuantiFERON® TB-2G第三世代 2009年 QuantiFERON® TBゴールド     (QFT-3G)第四世代 2018年 QuantiFERON® TBゴールドプラス     (QFT-Plus) 第四世代における大きな変更点としては、日本独自の基準である「判定保留」がなくなり、陰性コントロールの高値によっても判定不可となる基準が盛り込まれ、世界と同じ判定基準になったことがあげられる。また、世代更新と共に検出感度、特異度が向上しており、第四世代においては、免疫抑制状態の被験者に対する感度上昇が見込まれ、問題視されている高齢者結核対策への貢献が期待される。【おわりに】 当日は、クォンティフェロンが中心の内容となるが、折角の機会なので、当施設で実施している抗酸菌関連検査についての集計報告(陽性率、分離菌集計など)を予定している。  参加者の方にとって有意義な時間となれば幸いである。連絡先:049(232)0402(直通)67教育講演富井 貴之…(株式会社ビー・エム・エル総合研究所) 公衆衛生……第7会場 905号室 13:10~13:50結核感染診断検査クォンティフェロンの変遷~結核低蔓延国化へ向けて~

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