尿沈渣検査法は日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards;JCCLS)より2000年に尿沈査検査指針提案GP1-P3(尿沈渣検査法2000)が発表され、2010年にGP1-P4(尿沈渣検査法2010)として改定された。2017年に一部改変された医学検査2017 J-STAGE-1号「尿沈渣特集」の発刊により、標準法として確立されている。 職場や講習会などにおいての初心者への指導は、典型的なものに限って解説されることが多く、漠然と感覚的に捉えている場合、何が判定の決め手となる所見なのか具体的に意識されていないことも多い。日常の尿沈渣鏡検業務においては、典型的なものだけではなく、鑑別が困難な細胞成分も出現するため、難しく感じ、苦手意識に陥りやすい。 尿中に出現する上皮細胞は近位尿細管からHenleの係蹄、遠位尿細、集合管および腎乳頭までの内腔を覆う尿細管上皮、腎杯、腎盂から尿管、膀胱、内尿道口までの粘膜に由来する尿路上皮細胞、男性尿道の隔膜部、海綿体部の粘膜および女性尿道の一部の粘膜に由来する円柱上皮細胞、そして外尿道口付近の粘膜に由来する扁平上皮細胞に分類することができる。 尿沈渣検査において尿中の細胞を組織学的に分類する上では、細胞の形態的特徴のいくつかを把握し、総合的に判断することが重要である。今回は、特に以下に示す6つの細胞所見の取り方について解説する。①色調の見方(無染色) 灰色:表面構造が均質状で透明感が弱く厚く見える細胞。 灰白色:表面構造が均質状で透明感が強く薄く見える細胞。 黄色:表面構造が漆喰状や顆粒状でウロクロムなどの尿中色素が沈着しやすい細胞。 黒褐色:微細な脂肪顆粒を大量に含有している細胞。 濃黄色:ビリルビン尿で認めビリルビン色素が沈着した細胞。 茶褐色:ヘモジデリン顆粒を有する細胞。②染色性の見方(S染色) 染色性良好(赤紫色、青紫色、赤茶色):多くの上皮細胞はS染色で細胞質が赤紫色に染まる。染色性が良好な細胞は無染色で黄色に呈し表面構造が漆喰状や顆粒状を示している細胞である。単球・大食細胞、粘液を産生する細胞は青紫色を呈する。赤茶色を呈する細胞は、ビリルビン色素により、無染色で濃黄色を呈している細胞である。 染色性不良(淡桃色)、不染:S染色で染色性不良の細胞は表面構造が均質状を示す細胞である。大食細胞や白血球などの生細胞、機械的な擦過による新鮮な尿路上皮細胞なども染色性が不良となる。③表面構造の見方 均質状:深層型の扁平上皮細胞や円形・類円形の尿細管上皮細胞など顆粒成分の少ない細胞が示す。 漆喰状:尿路上皮細胞に特徴的な表面構造である。 綿菓子状:偽足を出している単球や大食細胞に特徴的な表面構造である。 不規則顆粒状:主に鋸歯型の尿細管上皮細胞が示す。 微細顆粒状:新鮮な各種尿細管上皮細胞が示す面構造である。 レース状:主に円柱上皮細胞や腺癌細胞に特徴的な面構造である。 しわ状:細胞質の薄い細胞に生じやすい。 ひだ状:主に細胞質の厚い中~深層型の扁平上皮細胞に認められる。稀に表層型の尿路上皮細胞に認めることがある。④辺縁構造の見方 曲線状(明瞭、不明瞭):中~深層型の扁平上皮細胞や萎縮状を示す円形・類円形型の尿細管上皮細胞は透明感が弱く辺縁構造が曲線状で明瞭である。著しい膨化状を示す円形・類円形型の尿細管上皮細胞は細胞質が薄く見えて辺縁構造が不明瞭となる。大食細胞の偽足が細く短い場合や少ない場合は不明瞭な曲線状を示すことがある。 角状(明瞭、不明瞭):尿路上皮細胞は辺縁構造が角状で明瞭なことが多い。角柱・角錐台型や洋梨・紡錘型、線維型の尿細管上皮細胞では辺縁構造が角状で明瞭なことがある。角柱・角錐台型の尿細管上皮細胞では特に細胞基底部は薄く深いひだを出しているため辺縁構造が不明瞭になる。洋梨・紡錘型、線維型の尿細管上皮細胞では円柱によって拡張され、細胞が引き伸ばされて広がり、辺縁は薄く不明瞭になる。 鋸歯状(明瞭、不明瞭):辺縁構造が鋸歯状で明瞭な細胞は、鋸歯型や棘突起型、アメーバ偽足型の尿細管上皮細胞が示す。辺縁構造が鋸歯状で不明瞭な細胞は主に偽足を出している単球・大食細胞で見られる。⑤細胞集塊の見方 細胞境界(明瞭、不明瞭):細胞質が厚く見え結合性の強い上皮細胞の集塊では細胞境界が明瞭である。細胞質が薄く、結合性の強い腺上皮由来の細胞集塊では細胞境界が不明瞭になることが多い。単球・大食細胞からなる集塊では細胞境界が不明瞭である。 透明感(弱い、強い):中~深層型の扁平上皮細胞は透明感が弱い。円柱上皮細胞や大食細胞などは透明感が強い。 結合性(あり、なし):組織を構成している上皮細胞は細胞同士が結合している。大食細胞や白血球は非上皮細胞であるため結合性は見られない。 辺縁構造(明瞭、不明瞭):上皮細胞の集塊の辺縁は明瞭である。大食細胞や白血球の生細胞は辺縁が不明瞭である。 細胞配列:多列上皮配列、渦巻き状、乳頭状、シート状、柵状、花冠状(放射状)、管腔形成、紡錘状、束状⑥特殊な所見 繊毛を有する、リポフスチン顆粒含有、異物の含有、結晶塩類付着、相互封入像など以上、個々の細胞の形態的特徴に注目し、総合的に判断することで細胞の鑑別が可能となる。65教育講演小関 紀之…(獨協医科大学埼玉医療センター…臨床検査部) 一般……第5会場 603号室 14:00~14:40尿沈渣検査の苦手を克服!~細胞所見の取り方(基本編)~
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