埼臨技会誌 Vol66
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 感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は、弁膜や心内膜、大血管内膜に細菌集蔟を含む疣腫(vegetation)を形成し、塞栓症、心障害、菌血症などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である。的確な診断の下、適切な治療を実施しないと多くの合併症を引き起こし、ついには死に至る重篤な感染症である。IEの診断における病原微生物の菌種同定や治療における耐性菌の検出および薬剤感受性検査は極めて重要な検査である。今回、当院における開院から10年間のIEの起炎菌検出状況を中心に講演する。 IEの診断において参考となるものにDuke診断基準がある。臨床基準と病理学的基準からなり、臨床基準はさらに、血液培養所見と心エコー図所見からなる大基準と、5つの臨床所見からなる小基準に分かれる。満たす項目とその数により、確診、可能性、否定的と判断される。大基準には血液培養検査と心エコー検査が含まれており、検査技師の果たす役割は大きいと考える。 IEの起炎菌について、当院における開院から10年間の検出状況についての検討の結果、IEと診断された94症例のうち起炎菌が同定されたのは86例で、そのうち1例では複数菌(2菌種)が検出された。菌種別では、黄色ブドウ球菌が28株(32%)と最も多く、viridans group streptococciが19株(22%)、その他連鎖球菌が11株(13%)などであった。栄養要求性の高いHACEK(Haemophilus aphrophilus、Haemophilus paraphrophilus、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Cardiobacterium hominis、Eikenella corrodens、Kingella kingae)群の菌は、Kingella kingae 1株であった。10年間を前後半期に分けて比較すると最も多く認められた起炎菌は、前半期では37株のうち10株を占めたviridans group streptococci(VGS)であり、後半期では50株中20株を認めた黄色ブドウ球菌であった。前後期で起炎菌の検出状況に差異を認めた。さらに黄色ブドウ球菌の内MSSAは前半4株から後半14株へと大幅に増加していた。海外や本邦における報告でもIEの起炎菌として最も検出の高い菌は黄色ブドウ球菌との報告もあり、当院の検出状況も類似してきていた。64 微生物検査室における病原微生物の菌出同定は、自動機器や簡易同定キットが主流であった。近年では質量分析装置による菌種同定を実施している施設も増加しており、同定検査の精度は大幅に向上している。当院でも質量分析装置の導入に伴い連鎖球菌の菌種同定は改善されてきた。しかし、IEでは疾患の重症度から血液培養採取前から抗菌薬投与された症例、複数セット血液培養ができない症例や培養検査で起炎菌が検出されない症例もある。適切な時期に適切な方法で培養検査を行うことが大切であるが、培養で菌の発育が認められない場合には、積極的に検体からの遺伝子検査を実施して正確な菌種を同定することが重要であると考える。教育講演渡辺 典之…(埼玉医科大学国際医療センター…中央検査部) 微生物……第3会場 601号室 14:40~15:20感染性心内膜炎の起炎菌について~当院における検出状況を中心に~

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