埼臨技会誌 Vol66
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 現在日本国内では、AST, ALT, LD, ALP, CK, γGT, ChE, AMYの酵素8項目については標準化が十分に推進され、国内サーベイにおいては、項目によって若干の差異はあるものの、およそ99%以上の施設がJSCC標準化対応法試薬を採用しているのが現状です。その結果、『どの病院・施設で検査を行っても同じ測定値が得られる』状況が実現しており、国際的に見ても日本の酵素項目の標準化は非常に進んでいます。 この状況の中、2020年にALPとLDの勧告法及び常用基準法、引いては標準化対応法がIFCC処方に変更となります。今回の講演では、この酵素項目の転換期に合わせて、『酵素項目を自動分析装置で測定すること』を復習・確認できる内容についてお話をさせて頂きます。 『酵素項目の測定』と聞くと、現在では試薬を自動分析装置に搭載し適切なパラメータを設定すれば、適切な測定値が得られるのが当たり前となり、その測定値、特に異常反応について考察を行う機会は非常に少なくなっているように感じます。実際、我々メーカー側から見ても、以前と比べて酵素項目に関する問い合わせは減っていることからも、酵素項目以外の項目へ注意を払う機会が増え、酵素項目の測定値に対する興味は低くなっているのかもしれないと感じております。 今回の講演では、改めて酵素活性測定の基礎について体系的に説明させて頂き、酵素項目にご興味を持って頂けるきっかけとなる内容にさせて頂きました。特に、前述の異常反応については、臨床側から回答を求められることもあり、やはり検査室での一定の考察・検証作業は必要であると考えております。試薬メーカーとして、異常反応が極力発生しにくい試薬を開発しておりますが、やはり全て異常検体に対応できないのも現実です。異常測定値を発見された際に、基本的な解析だけでも検査室で実施できれば、異常検体の解析の回答までの時間が確実に短くなりますので、今回ご紹介する内容を各検査室でもぜひ広めて頂き、異常測定値への対応能力を高めて頂く一助となれば幸いです。 本講演内容ですが、『酵素活性の定義』、『標準化とは』『自動分析装置における酵素項目の測定原理』、『実践編 酵素の異常反応』の4テーマに分けてお話をさせて頂きます。 第1部の『酵素活性の定義』では、以降の話の基本となる『酵素』そのものの基礎として、『酵素の定義』、『触媒作用』、『酵素活性の単位U/Lの定義』、『酵素活性測定に影響を与える因子』について解説致します。内容としては、高校生物で学習した内容を臨床検査に当てはめたものとなっており、昔の教科書を思い出しながら復習して頂ける内容となっています。 さらに、今般のJSCC処方の改訂においては、ALP, LDともに緩衝液とpHの変更がポイントとなっています。『酵素活性測定に影響を与える因子』の項では、これら2項目がIFCC法に変更された場合の測定値の変化とその要因についても説明致します。 第2部の『標準化とは』では、現在、日本国内の主流である『JSCC勧告法・常用基準法・標準化対応法』について解説致します。2020年の改定では、この『JSCC勧告法・常用基準法・標準化対応法』が変更となるわけですが、『勧告法・常用基準法』といった各方法がどういった立ち位置で設定されているのかについて説明致します。日常検査では『メーカー試薬 = 標準化対応法試薬』をご使用頂いていますが、『勧告法』や『常用基準法』といったものは日常的に触れる機会がないと思われますので、この機会に違いについて知って頂ければ幸いです。 さらに標準化においては、『測定方法』の基準を設定するとともに、『基準物質』を設定することも必要となってきます。この基準物質は日本国内においては『常用参照標準物質:JSCC常用酵素』および『常用参照標準物質:ChE』が使用されていますが、なぜ『測定方法』だけでなく『物質』まで統一する必要があったのかについても概説致します。また少し話が逸れる内容ですが、よくお問い合わせ頂く内容として、『LAPはどうして標準化されていないのか、キャリブレーターが存在していないのか』についても簡単にご紹介させて頂きます。 第3部の『自動分析装置における酵素項目の測定原理』では、実際に各自動分析装置でどのように患者検体の測定値を算出しているかについて説明致します。分光光度計を用いた『比色法』の一番の基本である『ランバート・ベールの法則』から始め、酵素項目で汎用される『レート法』、これらを用いてどのように測定値を求めているのかをご紹介致します。各メーカーから販売されている試薬の組成はメーカーごとにわずかに異なっていますが、その測定原理はほぼ同じです。ここで酵素項目の測定原理を理解して頂くことによって、最終の『応用編 酵素の異常反応』の内容がより分かりやすく、また日常検査で出現する異常反応に対しても対応方法の幅が広がると考えております。またここでも少し閑話として、LAPの検量係数の算出方法についてもご紹介させて頂きます。 最終の第4部では、ここまでの内容を踏まえ実践編として『酵素の異常反応』の事例をご紹介させて頂きます。今回は『CKの測定値が「0 U/L」』となった事例を取り上げ、この測定値を発見した際の考え方と対応の手順について一例をご紹介させて頂きます。酵素項目の異常事例は数多くのパターンがあり、今回の講演ではすべて事例をご紹介できませんが、対応方法の基本として『反応タイムコースの確認』と『希釈による再検』が非常に効果的ですので、本項の内容を日常の異常検体解析にもぜひご活用頂きたく存じます。 今回の講演内容は、基礎に徹したものとなっておりますが、酵素項目について高い頻度で頂くご質問をできるだけ解説しようと考えております。本講演内容を各検査室における教育にもご活用下さい。62教育講演小田垣 真一…(富士フイルム和光純薬株式会社) 臨床化学……第1会場 401・402号室 13:10~13:50酵素の『活性』を測るとはどういうことか

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