埼臨技会誌 Vol66
62/163

 甲状腺は首の前方で喉仏のすぐ下にあり、蝶が羽を広げたような形で気管を抱き込むようについている。大きさは、縦が4cmほどで重さは20g以下である。腫れると手に触れるようになり、さらに大きくなると首を見ただけでわかるようになる。甲状腺には4つの小さな副甲状腺も付いているが、今回は甲状腺についてのみ述べる。 甲状腺の組織は、甲状腺濾胞という球状の構造が詰まっている。濾胞の壁は濾胞上皮細胞という細胞で構成されており、濾胞の内部にはコロイドというサイログロブリンという蛋白に富んだゼラチン状の物質が詰まっている。この濾胞により甲状腺ホルモンが合成・分泌される。また、濾胞の外側には傍濾胞細胞(C細胞)も存在しており、カルシトニンというホルモンを分泌する。 甲状腺の異常は、形態の異常と機能の異常に分けられる。 形態異常は、甲状腺の腫れによっておこるが、全体的に腫れるのか(びまん性甲状腺腫)、しこり状に腫れるか(結節性甲状腺腫)に分けられる。 機能異常は、何らかの原因により起こり、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンの量が増減する。甲状腺ホルモンの機能は、一言でいうと代謝を活発化させることにある。しかし、甲状腺ホルモンの標的器官は、ある決まった臓器ではなく、体細胞全般に作用する。したがって、ホルモン量の異常により多彩な症状が現れることになる。 甲状腺ホルモンは、脳下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節され、さらにTSHの分泌は、視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によって調節されている。すなわち、甲状腺ホルモンの不足を感知すると下垂体からのTSH分泌が増え、逆に甲状腺ホルモンの過剰を感知するとTSH分泌が減少する。これをネガティブフィードバックといい、甲状腺機能の恒常性が保たれている。 甲状腺疾患診断のためのフローチャートに検査結果を当てはめると、ある程度まで甲状腺機能異常の原因を突き止めることができる。今回は、そのための検査について簡単に説明したい。まず初めに見る項目はTSHである。TSHは、αとβの2つのサブユニットの2量体で204個のアミノ酸からなる分子量約28000のペプチドホルモンである。TSHは甲状腺ホルモンよりも鋭敏に甲状腺機能を反映する。60 次に甲状腺ホルモンを確認する。甲状腺ホルモンにはT4とT3があるが、主にT4が産生される。血中に放出されると大部分が蛋白と結合し、ごく一部が遊離型として存在しており、フリーT3(FT3)とフリーT4(FT4)という。アミノ酸のチロシンを材料に合成され、ベンゼン環が2個ありここにヨウ素が結合している。3や4はヨウ素の個数を表す。末梢の細胞によりT4からヨウ素1個を取り(脱ヨード)T3に変換できる。主に甲状腺ホルモンとしての機能を持つのはT3でありT4はプレホルモンである。 最後に抗TG、抗TPO、抗TRAbなどの自己抗体、甲状腺穿刺吸引細胞診検査、123I摂取率の核医学検査などにより確定診断に近づける。 抗TG・抗TPOは、甲状腺ホルモン産生に関わる物質に対する自己抗体であり、主に橋本病の診断に重要な検査である。抗TRAbは、甲状腺濾胞細胞の細胞膜上にあるTSHのレセプターに対する自己抗体である。バセドウ病は抗TRAbがTSHレセプターに結合することにより、TSHが結合したのと同様に作用し過剰な甲状腺ホルモン産生をきたすことで起こる。123I摂取率は甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素の取り込みが活発か否かを調べる検査で、バセドウ病では活発であるが、破壊性甲状腺炎では不活発であるため鑑別診断として用いられる。 このようにして、ある程度までの診断が可能となるが、これだけではそう簡単には診断にたどり着けない場合もある。今回は時間が限られているのでこの程度の説明にとどめるが、もっと詳しく学びたい場合は、是非とも血清検査研究班の生涯教育研修会に参加し、知識を高めていただきたい。教育講演庄司 和春…(埼玉医科大学総合医療センター 中央検査部) 免疫血清……第6会場 604号室 9:30~10:10甲状腺ホルモン関連検査の基礎

元のページ  ../index.html#62

このブックを見る